誓願
『誓願』(Margaret Atwood 著、鴻巣友季子 訳、早川書房、2020年)は、『侍女の物語』の続編で、独裁国家ギレアデ共和国の崩壊前夜を三人の女性の視点から描きます。1人目はギレアデの冷酷な権力構造の内部に生きるリディア小母、2人目はギレアデで生まれ育ちその価値観を内在化させる少女アグネス、3人目はカナダで自由に育ったデイジーです。本作は三者の日記が交互に語られる形式を取りますが、3人はやがて打倒ギレアデという共通の目的の下に交わり、シスターフッドの物語となります。 『侍女の物語』の原著は1985年に発表されディストピア小説の代表作と評されるまでになりましたが、続編である『誓願』はそれから34年が経った2019年に出版されました。その背景には2017年にHuluで放送開始されたドラマ版が注目を集めたことや、現代の政治状況において同作が取り上げられる場面が増えたことがあるとされています。 著者は本作について、「実際に人間の歴史上で起きていないことは何一つ書いていない」と述べています。実際、アフガニスタンでは女性の教育が制限されているし、2021年には米国で議会襲撃事件というクーデター未遂がありました。2022年にRoe v. Wade判決が覆されたのも、女性の権利拡大からの揺り戻しを象徴する出来事でした。そして最近は各国でフェミサイドが社会問題化しています(フェミサイドをテーマにしたNetflixのドラマ『Adolescence』が世界的流行になりましたね)。このようなリアリズムを持ったフィクションでありながら、本作は鬱屈とした前作と打って変わってスパイ小説のようなエンターテインメント性があり、ディストピアのなかに希望が灯る瞬間には胸が熱くなりました。