『良い戦略、悪い戦略』(Richard P. Rumelt 著、村井章子 訳、日本経済新聞出版、2012年)は、企業やプロダクトにおいて「良い戦略」を作るための指針を豊富な具体例とともに示した本です。 「戦略という言葉が世にはびこって久しいが、正しい意味で使われているケースは少ない」と著者は指摘します。戦略はビジョンや目標とは異なり、直面する状況の中から死活的に重要な問題を見定め、そこに資源を集中させる方法のことです。したがって、「顧客中心のサービスを提供する」や「売上高をX%のばす」といったものは戦略とは言えません。悪い戦略の特徴として、次の4つが挙げられています。 1. 空疎である。戦略構想を語っているように見えるが内容がない。華美な言葉や不必要に難解な言葉で高度さを装っている 2. 重大な問題に取り組まない。見ないふりをするか、軽度あるいは一時的だとしてごまかしている 3. 目標を戦略と取り違えている。困難を乗り越えるための道筋を示すことなく、単に願望を語っている 4. 間違った戦略目標を掲げている。戦略目標が重大な問題と無関係だったり、実行不可能だったりしている...
『問題解決大全――ビジネスや人生のハードルを乗り越える37のツール』(読書猿、フォレスト出版、2017年)は、問題解決のための手段を古今東西から集めてカタログ的に紹介した本です。ハウツーに留まらず、その出自や周辺知識も紹介しているため、読み物としても楽しめます。例えば、プログラマにはお馴染みのブルートフォース(本書では「力まかせ探索」と呼称)の章では、Thomas Edisonがフィラメントの素材をブルートフォース的に探したエピソードが紹介されています。紹介されている手法群の中で言うと、特に後半で紹介されている手法は「結果が原因にフィードバックしてループができているような状況」に焦点を当てており、勉強になりました。 本書の方策番号26「フロイドの解き直し」で紹介されていたRobert W. Floyd(Warshall-Floyd法のFloyd)の言葉が印象深かったので引用します。 > やっかいなアルゴリズムの設計を行ったときに味わった私自身の経験では、ある種の技術が自分の能力を高めるために非常に役立った。すなわち、意欲をそそる問題を1...
『良いコード/悪いコードで学ぶ設計入門―保守しやすい 成長し続けるコードの書き方』(仙塲大也、技術評論社、2022年)は、「コードの読みやすさ」だけでなく「保守しやすい設計」についても論じている本です。したがって、『読みやすいコードのガイドライン』ではスコープ外だったクラス設計についても多くのページが割かれています。 私は特段の違和感を抱かずに本書を読んでいたのですが、調べてみると批判的な意見もそれなりにあるようです(https://zenn.dev/339/articles/e3c174fdcc083e)。コードの設計は、唯一の最適解があるようなものではないのだということがよくわかりました…
『読みやすいコードのガイドライン ―持続可能なソフトウェア開発のために』(石川宗寿、技術評論社、2022年)は、読みやすいコードを書くために理解・実践すべきことを命名、コメント、状態、関数、依存関係、コードレビューという観点から体系的に解説した本です。いくつか紹介すると、以下のようなことが書かれています。 読みやすいコードとは、シンプルで意図を理解しやすく、独立していて、構造化されたコードである 命名は「何をするか」を端的かつ説明的に表したものにする。逆に、「どうやって使われるか」「いつ・誰が使うか」は書くべきでない コメントには、ドキュメンテーションとしての役割と、非形式的な読解補助の役割がある。後者は、コードだけではどうしてもわかりづらい場合に付加的に書くもの 状態を管理する変数は互いに直交になるように設計する 状態遷移は非巡回かつ冪等になるようにする 状態を変更するためのコマンド関数と状態を知るためのクエリ関数は明確に分ける 『プリンシプル オブ プログラミング』と違って具体的なコード例が充実しているので、経験の浅い部分でも理解がしやすかったです。
『プリンシプル オブ プログラミング 3年目までに身につけたい 一生役立つ101の原理原則』(上田勲、秀和システム、2016年)は、「よいコード」を書くために意識すべき事項を集めた本です。具体的には「現時点で必要とされていない機能は作らない(YAGNI)」「データはなるべくテキスト形式で持つべき」といったものです。『達人プログラマー』『Clean Code』『人月の神話』などの有名書籍を集約した本なので、まとめ資料として便利です。 「陳腐化しないように」という意図から具体的なコードやツールの名前が一切提示されていませんが、私には抽象的すぎてピンと来ない部分もありました。
『FACTFULNESS 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(Hans Rosling、Ola Rosling、Anna Rosling Roennlund 著、上杉周作、関美和 訳、日経BP、2019年)は、人間が陥りやすい認知バイアスを、実際の統計に関するクイズを用いながら明らかにした本です。未読の方には、まずこちらのクイズ(https://factquiz.chibicode.com/)に挑戦してみることをおすすめします。クイズを解いてみて、「え、そうなの?」となった方には一読の価値があると思います。 本書で挙げられている認知バイアスは、過剰な一般化(大きすぎる主語)や恐怖リスクの過大評価など、基本的にはよく知られたものです。しかし、実際のデータを見せられると、自分がいかにこれらのバイアスに囚われているかがよくわかりました。 著者のOlaとAnnaが運営しているDollar...
『テクノロジーの世界経済史 ビル・ゲイツのパラドックス』(Carl B. Frey 著、村井章子、大野一 訳、日経BP、2020年)は、革新的な技術の登場によって雇用市場や社会全体がどのように変化するかを、産業革命を題材に論じた本です。 タイトルの「ビル・ゲイツのパラドックス」とは、彼が2012年に「イノベーションがこれまでにないペースで次々に出現しているのに、アメリカ人は将来についてますます悲観的になっている」と語ったことを指しています。産業革命の歴史を見てみると、機械化は長期的には間違いなく人類を豊かにしましたが、短期的に見れば雇用を奪い人々を貧しくする局面がありました。この議論は「AIによる自動化」についても成り立つはずで、現在を生きる(寿命がたかだか100年程度の)我々が「機械化で人類の仕事はなくなっていないから大丈夫」と安心するのは楽観的すぎるかもしれません。「AIによる自動化で我々の仕事はどうなるのか?」という問いについて考えるとき、産業革命の歴史は最も参考になる事例であり、膨大な関連研究を渉猟した本書は入口として最適な一冊でした。...
Webを構成する重要な概念(HTTP、URI、HTML、REST)を実践的な観点から丁寧に解説した本です。前半では基本的な概念を学び、後半では簡単なWebサービスの設計を通して理解を深めるという構成になっています。 私はバックグラウンドが機械学習だったため、Web関連の技術に関する基礎知識を固めるために読みましたが、結果としては非常に勉強になりました。出版から13年が経ち、古くなってしまった記述も存在しますが、本書で取り上げていられているようなWeb技術の基礎を学ぶことは現在においても有意義だと思います。私もこの内容を血肉とできるよう、今後も読み深めていきたいです。
「源泉徴収はナチスが発明したものではありません」でお馴染み。世間には、逆張り的態度のせいなのか、ナチスを限定的にせよ評価する人が少なからずいて、そのような言説にたいする反論のような内容になっている。 経済、雇用、家族、健康などにかかわる、ナチス政権が行った政策や公共事業を紹介しながら事実に沿って評価しているところは、情報として具体的で面白かった。しかし評価についてはほとんどが「政策の中心的な目的は迫害や戦争にあるのでいいことをしたのではない」、「民族的排外主義や軍需経済と表裏一体である」、もしくは「前政権に既に開始していて、ナチス政権が主導したのではない」という結論になっている。つまり、評価の対象を目的にしたり実績にしたりと恣意的に変えている上に、政策の目的をその背景まで遡って接続して評価をしている。結果、全体として「どこか一つでも非難すべきところがあればいいこととは言えない」という偏った評価方法になっていて、説得力がない。ナチスドイツの悪事や民族的理想や排外主義については既に知られているので、それから帰結して否定的評価をするのなら、一冊もかけて検証するほどのことではない。
徒然なるままにと言う感じだった。結構アドラー心理学っぽいことを繰り返し学びとして言い聞かせていた。息をするように自省をする私としてはすごく共感した。
本書は、今日のアプリケーションにおいて避けては通れないデータ処理に関する広範な技術を概観し、それらの特性とトレードオフを理解することを目指した野心的な本です。内容はかなり骨太で、特に分散システム特有の問題や合意のアルゴリズムを扱う8章と9章は、自分の経験が少ないこともあって咀嚼するのに苦労しました。実務と行き来しながら時間をかけて理解する類の本だと思いますが、一度通読してまとめることで、データエンジニアリングで必要な知識の地図を頭の中に構築することができたように思います。 消化不良だった部分もあるのでまた読みたい(最近第2版が出た)
ゲームAIの技術(深層強化学習と環境シミュレータ)を、チェスの時代から最先端のStarCraft IIやMinecraftまで歴史を追って解説した本です。2022年時点のスナップショットとして希少な資料です。
2021年頃からコンピュータビジョンの主要な研究テーマとなっているVision Transformerの関連研究を網羅的にまとめた本です。現在進行形で議論が行われているテーマも積極的に取り上げているため、批判的な読み方が要求されますが、2022年時点のスナップショットを取った日本語のサーベイとして希少な資料だと思います。
Kaggleの実践的な例を使いながらテーブルデータと画像データ、テキストデータに機械学習を適用する方法を解説した本です。最近タイトルに「Kaggle」を含む本をよく見かけますが、本書の特筆すべき点は、簡単な手法から徐々に高度な手法を取り入れていくという構成や、コードが適切に抽象化されていて再利用しやすくなっているところにあると思います。
最近のKaggleで大半を占めるようになった頻出となった画像やテキストを扱うコンペを題材として、取り上げる話題を深層学習に絞ったユニークな本です。コンペ期間中の試行錯誤の順番、実験効率化の方法、ファインチューニングを安定させるコツなど、トッププレイヤーだからこそ語れる貴重な情報が豊富です。 サイン本を所有。
近年機械学習の文脈でも注目されている「最適輸送」を解説した本です。ややマニアックかつ数学的にも高度なテーマですが、行間が丁寧に埋められているので私のような初心者でも読み進めることができました。例えば、導入部分では最適輸送を「確率分布を比較するのに使えるツール」と紹介した上で、様々な具体例をもって「なぜ機械学習に使えるのか」を説明しています。登場する定理には丁寧な証明が記されていますが、これらを飛ばして読んでも大雑把な理解は可能です。様々なレベルの読者に対応可能な本だと感じました。
数値計算ライブラリ(NumPy)だけで深層学習モデルを実装することを通してその内部動作を理解するということをコンセプトにした、大人気シリーズの第4弾です。第4弾のテーマは強化学習です。バンディットなど基礎事項の説明から始めて徐々にレベルアップし、最後はDQNやActor-Criticなど最先端の研究へとつながるアルゴリズムを自力で実装します。数式と実装の両面から強化学習の基礎を理解することができました。
アルゴリズムだけでなくプロジェクトの進め方などについても取り上げており、勝手に『推薦システム実践入門』と対をなす本だと捉えています。私は情報検索について断片的にしか知らなかったので、業務で検索改善に取り組むにあたって非常に重宝しました。
ローマ帝国の皇帝であり、ストア派の哲学者としても知られるマルクス・アウレリウス。その思考の断片をまとめたのが『自省録』である。 高校の倫理で名前を知った程度だったが、ローマに住んでいると街のあちこちで彼の像やゆかりのものを目にする。最近読んだ『テルマエ・ロマエ』にも主要人物として登場し、映画『ホールドオーバーズ』でも登場人物の愛読書として言及されていた。妙に縁を感じ、神谷美恵子訳で読んでみることにした。 ただ、実際に読んでみるとかなり手強い。それぞれ数行ほどの思索が脈絡なく並ぶ形式で、一本の議論や物語を追う本ではない。全体像を掴みにくく、結局最初の4章ほどで読むのをやめてしまった。 それでも興味深かったのは、そこに書かれている悩みや戒めが驚くほど現代的なことだ。高潔に生きるとは何か、自分が本当にすべきことにどう集中するか、他人の評価とどう距離を取るか。たとえば「公益を目的とするのでない限り、他人に関する思いで君の余生を消耗してしまうな」という言葉は、現代風に言えば「他人の目に振り回されず、自分の重要なことに集中せよ」という話だろう。...
面白そう
AIが人類の労働をすべて引き受けた世界で、今度はAI自身が「仕事」に悩み始めるおはなし
作者の予期しない最悪のかたちで同時代性を獲得してしまったけれど、そうでなければメディアミックスもあったかもと思った
メルカトル鮎、実写化…?!
いい意味で三島由紀夫っぽくない、瑞々しさがある