発売日に買って読んだ 登場人物の感情の動きがわかりやすい
この本は、「プログラムを書く」という行為がコンピュータ内部でどのように動作に変わるのかを解き明かします。ソースコードがどのように翻訳され、メモリにロードされ、CPUによって実行されるかという流れを、図解を交えて解説します。ハードウェアやOSの仕組みも取り上げられており、プログラムを深く理解するための基礎が学べます。例えば、メモリの仕組みについての章では、なぜプログラムがメモリ上に展開されるのか、ヒープやスタックの役割は何かといった疑問に答えてくれます。私は学生時代、こういったコンピュータサイエンス系の授業が苦手だったのですが、当時この本を読んでいれば、授業の内容をもっと理解できただろうと思います。
『転移学習』(松井孝太、熊谷亘 著、講談社、2024年)は、転移学習について体系的に学べる貴重な一冊です。本書では、転移学習の基本概念からドメイン適応、事前学習済みモデル、知識蒸留、マルチタスク学習、メタ学習、継続学習、さらに強化学習への応用まで、幅広いトピックを詳細に解説しています。 基盤モデルの進化によって実用性がさらに高まった転移学習を、統計的学習理論の観点から深掘りしているのが特徴です。特に、ラデマッハ複雑度を用いた期待リスクの上界、ノーフリーランチ定理に基づく限界、対照学習や相互情報量の最大化といった高度な内容もカバーされています。また、少数ショット学習、継続学習、強化学習での転移学習といった、応用範囲の広がりも包括的に取り上げています。
『ゼロから作るDeep Learning ❺ ―生成モデル編』(斎藤 康毅 著、講談社、2024年)は、生成モデルの理論と実装をゼロから学べる人気シリーズの第5弾です。本書は正規分布などの基礎事項から拡散モデルの仕組みに至るまでを一貫したストーリーで解説し、最終的には簡易版Stable Diffusionといった趣の画像生成AIを実装することを目指します。 本書の魅力は、生成モデルの発展を基礎から追いかけながら、理論と実装の両面で深い理解を得られる点です。数式を用いて確率分布や最尤推定を説明するステップから始まり、混合ガウスモデルやEMアルゴリズム、VAE(変分オートエンコーダ)を経て、最終的にはPyTorchを使った拡散モデルの実装に到達します。一方で、数式の展開が多いため、苦手意識のある方にはややハードルが高いと感じるかもしれません。
『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』(Tali Sharot 著、上原直子 訳、白揚社、2019年)は、データやロジックと説得力は別物であるということを、認知神経科学の観点から解説する本です。 反ワクチンの人に、子どもにワクチン接種を受けさせるよう説得するとしましょう。「ワクチン接種と自閉症に因果関係はない」という事実をもって相手の信念を否定しようとしても、相手は頑なになるだけです。認知能力の高い人であれば、自分にとって都合のいいデータを引っ張ってきて自説を強化してしまいます(確証バイアス)。このような状況では、「ワクチンは大きな病気から子どもを守る」という共通の目的からアプローチし(感情への寄り添い)、まずは「この人の話を聞いてやってもいい」と思ってもらうことが大切です。 本書で語られている内容は、さまざまな場面で活用できます。上司に提案を通す、子どもに野菜を食べてもらう、有権者に特定の候補者を支持してもらうなど。事実を並べるだけでは動かない局面で、「相手が大切にしている価値」や「共有できる目的」から入り直す、という発想が手に入ります。
c.f. https://hippocampus-garden.com/book_review_patterson/
通称「パタヘネ本」として知られる、現代のコンピュータの動作原理をハードウェアレベルから丁寧に解説してくれる定番教科書です。 私は低レイヤについては「大学の講義で習ったような……」というレベルのあやふやな理解しかしていなかったので、体系的に学び直そうと思って手に取りました。 https://hippocampus-garden.com/book_review_patterson/
『パリの国連で夢を食う。』(川内有緒 著、幻冬舎、2017年)は、著者がUNESCO勤務のためパリに移り住んだ5年半の体験を綴ったエッセイです。 妻がパリの国際機関にてインターンをすることになり、その後も国際機関でのキャリアを目指すことになったので、具体的なイメージを掴むために読みました。それまでは国連で働くということについて「グローバルエリートでかっこいい」という漠然とした印象しか持っていませんでした。しかし、本書を読み、妻からの話を聞くにつれ、巨大な官僚組織に国際政治と個人の思惑が絡みあったカオスな環境であるということがわかってきました。 著者のオープンマインドでフレンドリーな人となりやユーモアたっぷりな文体が気持ちいいので、国際機関で働く人もそうでない人も、肩の力を抜いて読める一冊です。各々異なる状況でパリに暮らす日本人たちにインタビューをした『パリでメシを食う。』もおすすめです。
『Database Internals: A Deep Dive into How Distributed Data Systems Work』(Alex Petrov 著、O’Reilly Media、2019年)は、データベースの教科書の決定版と言える本です。 私は分析用のSQLは新卒で就職してから日常的に書いているものの、その範囲は参照系の操作にとどまっており、高速化やトランザクションといった概念についてはパターン認識的な理解しかできていませんでした。これはソフトウェアエンジニアとして少し心許なかったので、一念発起して内部構造を勉強するために本書を手に取りました。具体的にはB木、シャーディング、コンセンサスなどの概念を扱います。 https://hippocampus-garden.com/book_review_petrov/
本作では、表題「三つ編み」が指すように、住む国も立場も違う三人の女性がそれぞれの苦境と立ち向かい、また最後にそれぞれの人生が交差する様が描かれる。 スミタはインドの地方部に住む、カースト外の「不可触民」であり、上位カーストの排泄物の回収を先代から生業にしている。このような生活のなかでは、娘のラリータを学校に入れて読み書きを習わせ、自身のような境遇に娘が抜け出すことが彼女の悲願だ。しかし、漸く入学させた娘が、教師から出自を理由としたいじめに遭うことになる。 ジュリアはイタリアのシチリアで、代々毛髪加工業を営む家庭に生まれ育った。しかし、突然の父の事故と、その家業の経営難に直面する。 サラはカナダの敏腕弁護士で、2度の離婚を経験し、三人の子を持つシングルマザーであり、私生活を犠牲にしてもすべてを仕事に投じ、華々しいキャリアを歩んできた。しかし、経営パートナーに昇進する手前で病が発覚する。...
物語の全体の構成は、①アフリカ系で、②生物学的には女性の出自であり(タイトルの女性、少女、それ以外というMECEな表現が表しているように、LGBTも含まれている)③イギリスで生活をしている、という3要素は共通している12人の女性(とそれ以外)の物語が、少しづつ絡み合いながらもそれぞれ丁寧に語られるというものである。この語り口がこの本の魅力の根幹となっており、また著者のメッセージを効果的に読者に伝えることに成功している。 前述の3要素に所属する場合、世間からはひとくくりに見られてしまう傾向があるが、与えられる物語の多様さがこの暴力的な見方(=偏見)を懇切丁寧に却下しているようである。そして何より、このような人々はこれまでの文学作品では声を与えられることがなかった中で、それをすべて12人の主人公として描くことに強い価値がある。さらに、ある登場人物から見た別の登場人物(別の章における主人公)が描かれることで、同じ立場にある女性同士でも生じうる無理解や価値観の相違を描き出している。...
あみ子は他者との本質的な関わりから隔絶された世界に彼女は生きている。あみ子は「楽しい」、「明るい」ものたちに囲まれ、いつもとても幸せそうだ。作者の筆致もわざと子ども向けの小説のようなにシンプルな、穏やかなものになっている。文章で登場することばも、可愛らしくかつ極めて易しいものばかり。軽度な知的障害があり、まるで幼稚園児のような彼女に近い視点から作品世界を描いているからである。 でも彼女が幸せなのは、彼女自身が悪意や悲しみを少しも感知できないからであり、本当は彼女の人生はとてつもない悲劇で満ちている。周囲からの蔑視、母の流産、彼女が原因で鬱病になってしまった母、父親のネグレクト、その状況に耐えきれずぐれてしまった兄。家庭崩壊を引き起こす要素が十分すぎるほどに揃ってしまった彼女の家族は、最後には容赦なく崩壊し、一家は離散してしまう。家族が崩れてしまったという事実にも気がつけない彼女の世界は、変わらずそのままつづいていく。...
著者は近年なにかおかしな方向にいってしまったようだが、この本はとても面白かった。
130年のローマ帝国(ハドリアヌス帝の時代)の浴場建築士ルシウスが不思議な力で現代日本に引き込まれる。そこで日本の風呂文化を学んで古代ローマに持ち帰ることで、ローマの様々な問題を解決する…という話。 Foro Romano, Tivoli, Ostia Anticaなど、ローマに住んでいると馴染みのある遺跡が多数登場し、当時の人々の生活が垣間見えるのがおもしろい。
「ジェンダー」と性規範を社会構造の観点から分析した理論書。社会構造を生産構造、権力関係、情動、象徴の4つの層に分け、なぜ性的役割が再生産されるのかを高度に構造的な分析によって明らかにしている。女性だけでなく、むしろ男性性研究として優れていると思いました。 個人的にはジュディス・バトラーのような現代フェミニズム理論の中心であるポスト構造主義的なアイデンティティ論よりも、構造主義的分析のほうが対象や論理展開が明確でわかりやすいと感じました。再評価されるべき理論と分析手法だと思います。 英語なので正しく読めたかは自信ありませんが……。
生活空間でも、職場でも、医療でも、都市設計までも、あまりにも多くのものが男性中心に作られていると著者は指摘する。 男性では(もしかすると女性でさえ)気づきにくい部分まで幅広い調査を行っている点はとても興味深い。 一方で、「男性中心主義」という批判がかなり飛躍している箇所が複数あること(女性用ファッションにおけるポケットやスマートフォンのサイズなど)や、解決への具体的な提言がことごとく欠落している(やればできるはず、やろうとしてない、という程度の意見ばかり)ことが残念。著者はジャーナリストなのでそこまでの期待はもつべきでないのかもしれないが、膨大な調査量にたいして分析が少なく、結果的に社会への文句に終わってしまっている。男性中心主義という語の運用も曖昧で、男女共犯としての性的役割(男性中心主義とは別物)と労働中心主義の交差を男性中心主義と短絡的に批判しているようにも見受けられる。 ただ、男性と女性の生きる視点の違いを知るという意味では読んで無駄になることはないだろう。
「美しい」とはなにか?美しい風景、素晴らしい文学、官能的な音楽、荘厳な建築物、忘れられぬ思い出……これらはすべて同じ「美しい」なのか? 背景として「美」、「芸術」、「感性」を主題とした議論や考え方を紹介し、現代の美学にかかわる様々なトピック(「センス」、「コピーの芸術」、「芸術とスポーツ」など)を取り上げ、身近な例から形而上的な議論へと丁寧に発展していく。 わかりやすく、おもしろかったです。
未遂が減軽されるのはなぜか?「結果」という客観と「意図」という主観を法はどのように扱うのか? 罰を覚悟の上で犯罪を行う者を、我々は倫理的に責めることができるか?つまり、法は人の倫理観を規定することができる(べき)か? ギリシャ哲学の影響によってローマ法学が理論化されてから、現在に至るまで積み重ねられてきた「法」をめぐる議論、概念、問い、分野をまとめた入門書。 正義や倫理に関連する哲学の分野として、とても重要な問いが扱われているのでとても興味深い内容でした。 「昔の法律では、ペットの飼い主が死亡するとそのペットは法人格を持つ」など、ところどころにユーモアを交えながら高度な議論をわかりやすく解説してくれる良書です。
タイトルの通り、現代思想の入門書。デリダ、ドゥルーズ、フーコーなど迂闊に手を出して挫折しやすい著名な人物から、現代思想の源流となるニーチェやマルクス、そして精神分析を踏まえて、現代思想(ポスト構造主義)の主要な概念や考え方、読み方を丁寧に解説してくれる良書。 現代思想を体系的に捉えることで、なぜ哲学と精神分析が交差するのか、なぜ二項対立や同一性と差異などの考え方が社会的な意味を帯びるのかなど、それぞれの哲学者の専門書よりも広い視点で理解する手助けとなります。 個人的に、ポスト構造主義には「これまでの哲学と切り口が違いすぎてイマイチ頭に入ってこないな」という苦手意識を持っていましたが、本書を読んでかなり近づきやすくなったと思います。
『科学的根拠(エビデンス)で子育て 教育経済学の最前線』(中室牧子 著、ダイヤモンド社、2024年)は、教育経済学者の著者が子育てや教育にまつわる通説をエビデンスに基づいて検証した一冊です。 教育に関してはさまざまな通説があります。私立の学校に入れる、スポーツをさせる、習い事をさせる、などなど……。新米の親としては、こういった無数の選択肢にめまいがしてしまうほどです。しかし、これらの「やった方がいいとされていること」にはどの程度のエビデンスがあるのでしょうか。本書は、教育経済学の論文のメタアナリシスを通してこれらの質問に答えます。 個人的に確認できてよかった点は、幼児期は認知能力よりも非認知能力(忍耐力、集中力、社会性など学力テストでは測られない能力)の育成に集中した方が良い、というものです。非認知能力は10歳以降に伸ばすことが難しい上、認知能力を伸ばすのに複利で効きます。日本の教育政策も非認知能力の観点が軽視されがちと評しています。 一方、マクロとしての教育政策ではなく一人の親として本書を読む場合は、平均処置効果(average treatment effect,...
『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(小野寺拓也、田野大介 著、岩波書店、2023年)は、ナチス政権の政策について「アウトバーン建設や失業対策、家族支援など良い面もあった」などとする通説を歴史的文脈に照らし合わせて検証する本です。個別の政策の検証内容については実際に読んでいただくとして、本書から学べる重要なメッセージは「解釈を持ち込まず、無色透明な尺度によって神の視点から歴史を叙述することはできない」ということです。歴史は事実・解釈・意見が不可分であり、解釈を抜きに良い・悪いを語ると結論を誤ると強調しています。この忠告は、昨今のポストトゥルースが跋扈する世の中においていっそう重要です。
肉食獣と草食獣が共生する社会に生きるオオカミの高校生が通う学校で食殺事件が起こる。そんな緊張感が高まるなかで、一匹のウサギと出会うというところから始まる物語。 サスペンスもあるが、かなり社会派の作品。多様性の難しさをいろんな角度から描いていて、世界観にかなり広がりがあります。キャラクターデザインもよい。
2026年でも読んでる人ー🖐🏼
『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』(金原ひとみ 著、文藝春秋、2025年)は、「告発」というこれまた現代的なテーマを扱った群像劇です。ある女性が過去の性的搾取を10年越しに告発したことをきっかけにさまざまな事件が起き、遡及的な糾弾や私刑といった正義と加害の境界が曖昧になる様子、また各登場人物が自分にとって都合のいい真実を作り上げる様子が深く掘り下げられます。 金原作品は、声に出して読みたい美しい日本語が多数登場するのも個人的に好きな点です。「男って、性欲があるうちは有害なクズで、性欲がなくなったら有害なゴミだよね」なんてフレーズに出会える小説を他に知りません。