突然家族と仕事を捨て、画家を目指してロンドンからパリへと渡った中年男が、取り憑かれたように芸術を追い求めていく物語。語り手はその男を追いながら、「芸術と人間」について見つめ、考えていく。 哲学的な命題を多く含んだ作品ですが、モームの作るウィットに富んだ会話や人物描写によって楽しく読めました。 日本語訳は金原瑞人がとてもよかったです。
『誓願』(Margaret Atwood 著、鴻巣友季子 訳、早川書房、2020年)は、『侍女の物語』の続編で、独裁国家ギレアデ共和国の崩壊前夜を三人の女性の視点から描きます。1人目はギレアデの冷酷な権力構造の内部に生きるリディア小母、2人目はギレアデで生まれ育ちその価値観を内在化させる少女アグネス、3人目はカナダで自由に育ったデイジーです。本作は三者の日記が交互に語られる形式を取りますが、3人はやがて打倒ギレアデという共通の目的の下に交わり、シスターフッドの物語となります。 『侍女の物語』の原著は1985年に発表されディストピア小説の代表作と評されるまでになりましたが、続編である『誓願』はそれから34年が経った2019年に出版されました。その背景には2017年にHuluで放送開始されたドラマ版が注目を集めたことや、現代の政治状況において同作が取り上げられる場面が増えたことがあるとされています。...
奇しくもわが国にも確か10年前くらいに「女性は産む機械」と表現した厚労相がいたやに記憶しているが、侍女の物語とその続編The Testaments(誓約)ではまさに社会が女性を産む機械(=侍女)として扱う未来のアメリカ、クーデターにより成立されたキリスト教原理主義国・神秘主義国であるGileadの姿が描かれている。 簡単に言えば、物語世界の中で女性は①妻になるか(=Wives/Econowives)、②家事をするか(Marthas)、③(上流階級である妻Wivesが不妊の場合)子供を産むか(Handmaids)、④女性たちの指導役になるか(Aunts)のどれか一つしか選ぶことが許されないなど、他のディストピア作品と同様強烈な描写が続くが、この作品世界から乖離しているとは決していえない現実世界のことを思うと、常に物語に私の腕を掴まれているような心持ちで向き合わざるをえないのであった。つまり、一作目の侍女の物語が発表されたのは1985年だが、その後Gileadに似たようなISIS(キリスト教ではなくイスラム教だが)が現実の世界に登場したり、各国で極右政権や反知性・科学主義が台頭するな...
「誓願」ですっかりマーガレット・アトウッドにやられた私は同じ没入感を得たいと思い同じ作者かつ「誓願」と同じくブッカー賞を受賞した"Blind Assassin"を読むことにしたが、これまで読んだ洋書で最も難解な作品だった(1ヶ月半かけてやっと読了)。母語ではない言語だということももちろん要因の一つだが、何より作品の多重構造と文体によるものが多いように思われる。作品は老女の日記と、老女の回想、逢瀬を重ねる男女の物語、この物語の中で男が語るおどろおどろしいSF、そして新聞記事が挿入される構成となっている。この小説ではそれぞれの物語が密接に絡み合っており、散りばめられた謎を解明していくミステリー要素もある作品であるし、ロマンスやSF、フェミニズム文学など、多様な要素を包含している作品であった。
朝井リョウさんの9月5日発売の新刊を早速読んだ。ストーリー展開もテーマ設定も面白く、あっという間に読み終えてしまった。「この時代の香りを瓶詰めにして残しておきたい」とご本人が明言しているとおり、この2025年を支配するあらゆる事象を、高い解像度と言語化能力、スピーディーな物語展開で表していた。 また、実験作だった「生殖記」での一人視点での語りとは異なり、これまでの多くの作品と同じように複数の主人公視点での群像劇で、すべての物語が交差するクライマックスを提示している点でも彼のいつものスタイルが貫かれており、一ファンとしては期待どおりの楽しい作品だった。「推し活」を通じて三人の登場人物の人生が壊れていくストーリー展開は、ドラッグを通じて破滅する三人の登場人物を描いた映画『レクイエム・フォー・ドリーム』のようだった。 朝井リョウさんの作品は、『暇と退屈の倫理学』といった思想書のような主張をベースに物語を構築し、その主張をわかりやすく登場人物に語らせるのが特徴だと思う。...
『白の闇』(José Saramago 著、雨沢泰 訳、河出書房新社、2020年)は、空気感染で人を失明させる正体不明の感染症が突如大流行するという設定のディストピア小説です。原著は1995年に出版されました。 舞台は感染者たちを収容する廃病院で、政府から見放されたその施設では感染者が増えるに従ってモラルが崩壊していき……というホラーな展開です。『ペスト』とは一転して非現実的な設定ですが、その分、読者を没入させるようなおもしろさがありました。 Saramagoはポルトガルの作家で、1998年にノーベル文学賞を受賞しています。未邦訳ですが、2004年には『Ensaio sobre a Lucidez』(見えることについて)という姉妹作を書いているそうです。また、本作は2008年に『ブラインドネス』として映画化されています(想像するだけでおぞましいシーンが多かったので、映画を観たい気持ちにはなれませんが)。
視界が白い光で覆われてしまう感染病が広がっていくなかで生き抜く人々と、ただ一人だけ視力を失わなかった女性を描いた小説。 ふと人の弱さ、残酷さ、高潔さ、尊厳などについて考えるとき、この小説を思い出します。
この本は、人類が理性的に組み上げたはずの近代以降の社会システムに隠蔽された宗教的価値観を指摘し、近代を支える普遍と主体の概念の虚構を分析している。 幅広い分野を取り扱っているが、本旨と註釈に分けてしっかりと解説されているので読みやすい。ほとんどの部分が、段落の1文目を2文目以降が補足する形式になっているので、そこを意識すると理解しやすい。 内容については、社会構造や近代の政治哲学をメタ的に分析し、自由と平等の矛盾にたいして新しい補助線を提示している点がとても面白かった。が、著者のニヒルな笑みが滲み出てしまっているので星4。
『The Martian』で知られる人気SF作家による新作で、例によって宇宙で一人でサバイバルという設定の小説です。実は本書で初めて英語の長編小説を読破したのですが、全体を通して平易な英語で書かれていて読みやすかったので、英語の小説に挑戦してみたい方にもおすすめです。 (日本語訳の質は悪いらしい:https://note.com/hiroshima_pot/n/n31eb44bb2719)
科学の面白さを全力で伝えてくれる一冊でした。今まで読んだSFの中で1番面白いです。 ストーリーも素直で非常に読みやすい本でした。
日本で広がる推し活文化とファンダム経済を描いた小説です。 独白形式だった前作『生殖記』(個人的にはハマれませんでした)からいつもの群像劇スタイルに戻った本作は、ファンダムの仕掛ける側、仕掛けられる側、かつてハマっていた側の3者の視点で物語が進みます。推し活という一見非合理的な行動に人々がのめり込んでいく過程が臨場感たっぷりに描かれています。また、裏テーマである中高年男性の「友達いない問題」もまさに自分の将来のようで、クリーンヒットでした。 私は推し活という行為が長らく理解できず、宇佐美りん著『推し、燃ゆ』もピンと来なかったのですが、本作で腑に落ちました。ちなみに、タイトルにある「メガチャーチ」について、私は本作で初めて知ったのですが、本家のメガチャーチもかなりすごいのでぜひYouTubeなどで検索してみてください。
LLMをはじめとする基盤モデルの波が単なるプロトタイプづくりから製品開発フェーズに移行しつつある現在、基盤モデルを活用して信頼性の高いアプリケーションを構築する方法を学ぶのに良い一冊です。単なる技術解説にとどまらず、本番プロダクトを作るという目的を念頭に置いたうえで、モデルの選定から評価、プロンプト設計、ファインチューニング、スケーリングまで、基盤モデルを製品に組み込む流れを実践的な観点から説明しています。 2025年11月に邦訳も出版されました。
古典の授業で一部読んだ
Bibly を正常に動かすための必須 Cookie と、読者のみなさんの使い方を理解するための任意の分析 Cookie を使用します。